佐藤さんは甘くないっ!
「……今日はいない日だったか」
落胆した声でそう漏らすと、佐藤さんはわたしの身体を優しくベッドに横たえた。
この会社には常時ではないが一応専属のお医者様がいて、週に何日かはこの医務室で働いている。
生憎、今日は先生のいない日だったようだ。
「あの…大丈夫です……昨日から食事を摂ってない所為だと……思うので…」
この年にもなって体調管理ができていないなんて恥ずかしい。
身勝手な理由からスーツまで汚してしまった。
申し訳なくてだんだん声が小さくなる。
それを聞いた佐藤さんは一瞬目を見開いて、すぐに悲しそうな顔をした。
「つまり……俺の所為だな」
ぎし、とベッドが軋む。
そういう意味で言ったわけじゃない。
……空いた口が、空気を食む。
違うと言おうとしたけど、わたしが落ち込んでいた要因は紛れもなく佐藤さんだ。
だからその言葉を否定することもできず、ただ押し黙った。
無言は肯定、とはよく言ったものでわたしの態度が何よりも肯定している。
お互い黙ってしまい、重たい空気が医務室にどんよりと溜まった。
そんな中で色々話したことはあるのに、真っ先にわたしの口から出たのは仕事の話だった。
「そんなことより、出張はどうしたんですか…?スケジュールがきつくて、……最上さんと一緒だって、聞きました」
自分で言っておいてなんだけど、悲しかった。
心に鉛が落ちてきたみたいに重くて苦しくて、つらい。
窺うように佐藤さんの顔を見やると、困ったように眉を下げていた。
それは佐藤さんらしからぬ、なんだか珍しい表情に思えた。