佐藤さんは甘くないっ!
「……そんなことより、か」
またわたしが佐藤さんにこんな顔をさせているのだろうか。
…わたしの所為で。
いつかのように胸がずきずきと痛み始める。
佐藤さんには、いつもの佐藤さんでいて欲しいのに。
どうしてそんな簡単なことができないんだろう。
「柴は俺よりもよほど優秀だな」
え?
言葉の意味を問い返す前に、強く抱きしめられた。
まるで顔を見られたくないと言われているような気がした。
「こんな状態の柴を置いて、出張なんか行けるわけないだろ…」
声が震えているような気がした。
……わたしのため?
うそ、だ。
あの仕事人間の佐藤さんが、そんなことするはずない。
誰よりも仕事が大好きで、誰よりも誇りをもっているのに。
信じられなくて思わず自分の頬をつねった。
佐藤さんにはこの奇行が見えていない。
「日曜からずっと顔色が悪い……階段から落ちてきたときは本当に柴が消えるかと思った」
腕の力が強まって泣きそうになった。
このまま消えてしまいたい、と何度も呟いていた自分の姿がフラッシュバックする。
消えるわけないのに、それくらい心配させていたことにまた胸が痛んだ。
今日も化粧で頑張って誤魔化してきたつもりだったけど、やっぱりだめだったみたいだ。
おまけに食事を摂っていない所為で低血糖を起こして嘔吐までして。
自分で言うのもなんだけど酷い。
それだけ……それだけ、ダメージが大きかったから。
何も言えなくて、ただ佐藤さんに抱き締められたまま硬直する。
目を閉じれば最上さんの鋭い言葉が簡単に、鮮明に、甦る。
“だからもう、貴女は要らないのよ”
傷付けるために放たれた言葉は、思い出しただけで容易くわたしを切り付ける。
ただあのときと違うのは、佐藤さんが一緒にいてくれて、わたしを抱き締めてくれているということだった。