佐藤さんは甘くないっ!
背中に回された腕の温度を感じながらぼんやりと虚空を見つめる。
こんな風に触れるのはいつ以来だろう。
…温かいのに、どこか寂しい。
「今回の出張は……本当は、俺と星川で行くはずだったんだ」
何故か重たそうに紡がれた言葉。
佐藤さんの真意が解らなかったが、とりあえず頷いておく。
「……それを麗、…いや最上が、星川の代わりに行くと言いだして」
麗。
佐藤さんは慌てて言い直したがはっきりと聞こえてしまった。
…やっぱりお互い名前で呼び合っていたんだ。
予想が着いていたことなのに、いざ佐藤さんの口から聞くと二人の深い関係がはっきりと見えるようだった。
思わず零れそうになった溜息をぐっと飲み下す。
「結局、あいつの我儘に諦めた星川が了承して、俺と最上で行くことになった」
最上さんはどうしても佐藤さんと出張に行きたかったんだ。
……それも二人きり、で。
出張に行く星川さんと佐藤さんに同行することもできただろうに、自分と代わってくれなんて…。
最上さんのことは全く知らないけど、自由奔放で我儘な振る舞いはよく似合っていた。
…わたしが言えた立場じゃない。
だけど、仕事をなんだと思っているんだろう。
佐藤さんの元パートナーだっていうならもっと品格をもった行動をしてほしい。
その場所は、わたしがずっとずっと欲しかったものだったのに。
追い付くこともできず、同じ歩幅で歩くこともできなかったわたしには、眩しすぎる場所なのに。