佐藤さんは甘くないっ!
もやもやした感情が胸の内に立ち込める。
それは深い霧のようで、自分の心なのに先が見えなくなる。
「……俺は自分で思ったほど仕事人間じゃないらしい」
そんなこと、と言いかけて口を噤んだ。
そんなこと……わたしに、解らない。
佐藤さんが解らない。
わたしの知っている佐藤さんって、なんだろう。
目の前の佐藤さんはゆらゆらしているように見えた。
わたしの心がそう映しているのか解らないけど、いつもの横暴な態度や俺様らしい自信が欠けている気がした。
「俺の所為だとは解っているが、柴のことが心配だった」
急に腕が解かれて、正面から向き合う形になった。
佐藤さんの真摯な瞳とぶつかる。
その色に濁りはなかった。
……間違いなく、わたしの記憶の中にある佐藤さんの瞳だった。
「今朝、星川に呼び出された。最上も元第一部署の人間だ。同じ部署から二人行くより自分が行った方が良いと言われた。……理由はよく解らなかったが、俺はその方が助かったからあいつに任せた」
…星川さんは何を思ってそんなことを?
一瞬そんな疑問が頭を過ぎったが、佐藤さんの鋭い眼差しで現実に引き戻された。
「仕事中は柴に関する理由で自分を曲げないと決めていた。誰より仕事に打ち込んで、誰より成績を上げることを今まで目指してきた。……でも、」
言葉が途切れて、佐藤さんは困ったように少し笑った。
…どうしてここで笑うんだろう。
不思議に思って瞬きを繰り返すと、佐藤さんの手がそっとわたしの頬に触れた。