佐藤さんは甘くないっ!
「……まぁ情けない話なんだけどな、そもそも柴を泣かせたのは俺だし」
どきどきと心臓が煩い。
佐藤さんの視線に縫い付けられたように身体が動かない。
大きな溜息をひとつ吐いてから、佐藤さんは真面目な顔をして言った。
「今回だけは―――何より大事にしてきた仕事より、柴を優先したかった」
こんなかっこ悪い俺でごめんな。
……続けられた言葉が、苦しかった。
佐藤さんは任された出張を誰かに譲ったりしない。
それくらいわたしでも解る。
責任感は人一倍で、寧ろ人の三倍くらいあって。
いつだって仕事に一生懸命で、愚痴ったりしなくて、弱いところなんか見せなくて。
そんな佐藤さんが上司として好きだった。
いつか追いついてやると言って、追いかけているのが幸せだった。
わたしのこと全然褒めてくれなくて、鬼みたいな顔ばっかりしてきて。
有り得ない量の仕事を平然と任せてきて、自分はその倍以上の仕事を平気でこなして。
いつだってかっこいい上司だった。
わたしにとっては誰よりも尊敬できる上司だった。
かっこ悪くなんかない。
いつだってわたしをきちんと見てくれて、頑張りを認めてくれて。
優しくて、意地悪で、怖くて、嫉妬深くて。
だけど全部全部、かっこよかった。
……解っているからこそ、わたしの存在が足枷なんだと思い知らされる。