佐藤さんは甘くないっ!

どうしてこんな風になってしまったんだろう。

わたしがもっと強ければ、あの日逃げたりしなければ、良かったのかな。

ハイヒールと赤いルージュがわたしを睨む。

彼女の双眸はわたしの存在を許さない。

解らない。もう解らない。

だけどただひとつ解るのは、きっとわたしの所為だということ。

ねえ佐藤さん、ずっとかっこいい上司でいてくださいね。

俺様で、傍若無人で、怒りっぽくて、口が悪くて。

ひとのことすぐパシリにして、間違えて買ってきたらめちゃくちゃ怒って。

仕事ができるくせに偉そうにしなくて、誰より必死に頑張ってて。

なのにつらそうな顔なんて一度も見せなくて、いつも仏頂面で。

宇佐野さんと良い感じのバランスを取って第一部署を引っ張ってくれて。

誰からも恐れられているけど、誰からも尊敬されているひと。

わたしの憧れのひと。



……わたしの、大好きなひと。






「…………佐藤さん、」


ねえ、もう少し、泣かないで。

声も震えてしまわないで。

もう少しだけ我慢して。

佐藤さんの前ではもう涙なんて見せないで。

わたしの所為で変わってしまう佐藤さんなんて嫌だから。

仕事よりわたしを優先してしまう佐藤さんなんて、見たくないから。

確かにきっかけは佐藤さんでも、体調管理ができなくて仕事に支障をきたしたのはわたしの落ち度なのに。

いっそ馬鹿柴って罵ってくれればいいのに。

優しくしないで。

甘やかさないで。

佐藤さん、お願いだから変わらないでいて。

わたしなんかのために、今までの自分を曲げないでいて。

……だって、嬉しいはずなのに……悲しくて仕方がないよ。




「ごめんなさい―――やっぱり佐藤さんのこと、好きになれませんでした」

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