佐藤さんは甘くないっ!

二人でいるのにずっと沈黙というのはよくあることなのに、なぜか今日に限ってそれがとても物足りなく感じてしまった。

それはこの雰囲気が仕事中のピリピリしたものではなく穏やかな休日のようだったからかもしれない。

何か話しかけても良いだろうか…煩いって怒られるかもしれないけど。

しかし肝心の話題が見付からない。

そして真っ先に脳内に浮かんだのは、よりにもよって昨日律香と交わした会話だった。


「………あ、あの、佐藤さん」

「…なんだ?」


い、いやでもさすがにいきなりお付き合いしているひといるんですかとか聞けない…!

無言で拳飛んでくるよね!絶対に!

まだこんなところで死にたくないからその話題は回避するとして……うーん。

しかし既に話し掛けてしまっているのでなにか二の句を継がなければならない。

そもそもどうして話題も決まってないのに佐藤さんの名前を呼んだのか。

…わたしの無計画さが露呈している。

そして窮地に立ったわたしの口をついて出たのは、本当にどうでも良い話だった。


「そういえばわたし今度合コンすることになったんですよー!」


…な、なにが“そういえば”なんだろう。

自分で言ったくせに冷や汗がだらだらと流れてきた。

無駄に明るく言ってみたが佐藤さんにしてみれば「それで?」としか言いようがない話題だ。

わたしは一体どんな返答を期待していたのか自分でも解らない。

良くて「どうでもいい」、悪くて「で?」という言葉が返ってくることを予想してそっと乾いた笑いを零す。


しかし次の瞬間―――プリンターに背中を預けるように立っていたわたしの視界が、ぐらっと揺れて暗転した。

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