佐藤さんは甘くないっ!
予想に反して佐藤さんは優しくて、甘くて、わたしが嫌いな自分の要素をひとつひとつ肯定してくれた。
わたしの好きそうなお店をリサーチしてくれたのが嬉しかった。
お家デートはとても楽しくて、襲われないかひやひやしたけど、本当はそうなったって良かったのかもしれない。
いつだって佐藤さんのことをどこかで許していた。
自分の作ったご飯を美味しいと食べてくれたのがとても嬉しかった。
同じベッドで寝て、起きたら隣にいて、一緒に二度寝をしてごろごろしたのが幸せだった。
優輝から連絡があって少し心が揺れた。
揺れた原因がよく解らなかったけど、会ってみたら自分の気持ちに気付いた。
結婚を祝福する気持ちしか沸いてこなくて、あんなに過去を振り返っていた自分がバカバカしく思えた。
やっぱり佐藤さんが好きだなって思ったけど遅かった。
わたしがもっと早く気付いていれば良かった。
わたしがもっと早く好きって伝えれば良かった。
……何があっても、佐藤さんを信じるべきだった。
「…………柴、」
背を向けたまま佐藤さんが静かにわたしの名前を呼んだ。
最後まで柴だった。
一度だって名前で呼んでもらえなかった。
わたしも、馨さんと呼んでみれば良かった。
与えられることをただ待つのではなくて、自分から求めてみれば良かった。
わたしはいつだって佐藤さんに甘えているだけだった。
だからこんな風に罰が当たったんだ。
「……なんですか?」
声が震えないようにするのは難しかった。
涙を慌てて拭って、万が一振り向かれても笑顔でいられるように無理やり口角を吊り上げた。
最後くらい、笑って終わりたい。
「―――短い間だったが柴と過ごせて楽しかった、ありがとな」
その言葉に涙が堪えきれなくなり、わたしは唇を噛んで瞼をきつく閉ざした。