佐藤さんは甘くないっ!
「なんてこの俺が言うと思ったのか、馬鹿柴」
―――え?
どさっ、と強い衝撃と共に身体がベッドに沈み込んだ。
予想外の展開に身体も頭も追い付かない。
目の前がチカチカしてきた。
抑えようにも我慢できなかった涙は、勝手にぴたりと止まっている。
わたしに覆い被さるように馬乗りになった佐藤さんは、煩わしそうにネクタイを解いて床に放り投げた。
今までネクタイが蓋をしていたのか、謎の色気がどっと溢れ出す。
開いたシャツから見え隠れする鎖骨が最高にエロい。
その表情はさっきまでと打って変わってにこやか……というか、怖かった。
口元に浮かぶ歪んだ微笑が全てを物語っている。
あ、やばい。
本能的にこれはまずいことになったと判断し、けたたましい警鐘が鳴り響く。
「……あ、あの、佐藤さん…?」
「お前は本っっっ当に、馬鹿柴だな。一方的に言われて俺が“はいそうですか”っておとなしく引き下がると思ってんのか?んなわけねえだろ、甘すぎだ馬鹿」
に、2回も馬鹿って言われた……。
久しぶりに俺様何様佐藤さんを目の当たりにし、冷静な思考が取り残されていく。
さっきまでのシリアスな雰囲気はどこへ行ってしまったのだろうか。
わたしが決死の覚悟で言ったお別れはなんだったんだ!
ぐっと身体を折って顔を近付けた佐藤さんは、わたしの涙をべろりと舐め取ってにやりと笑った。
「初めて会ったときからずっと柴だけ見てきたんだ。そんな簡単に手放すかよ、ばーか」