佐藤さんは甘くないっ!

心臓がきゅうっと苦しくなった。

苦しいくせにどうしようもなく甘い締め付けで。

ああもう逃げられないんだと覚悟するのと同時に、言葉にできない嬉しさが込み上げてきた。

失ったはずの恋心がじわじわと色付いていく。


「~~~っ……佐藤さんの、ばかっ……ばかばかばかっ…!!身勝手すぎますよっ……!!」


ついに嗚咽と共に、再び涙が頬を流れ落ちた。

生温い舌がそれを丁寧に舐め取っていく。

時折触れる吐息が熱くて、頭がおかしくなりそうだった。


「悪いな柴。俺は元々、何を言われようと引く気なんか無かった」


お、お試し付き合いとは一体…!?

衝撃的な告白に固まった。

約束を守る気が最初からなかったなんてとんだ詐欺師である。

なんとも言えない脱力感に襲われるが、わたしに触らない約束だけは一応守ってくれていた。

たまにキスしたりあれこれはあったけど、資料室での一件ほど酷いものは無かったのも事実だ。

どうして佐藤さんはわたしの言うことを聞いてくれたんだろう?

わたしが質問しようと口を開けた瞬間、涙にまみれた舌が捻じ込まれた。

突然のことに舌を引っ込めるのが間に合わず、そのまま絡め取られる。


「ん、ふっ……は、ぁっ…!」


息継ぎの仕方なんてもう忘れてしまった。

溺れるように必死で息をして、降り続けるキスの雨を受け入れ続けた。

ねっとりと甘ったるいキスはまさに佐藤さんみたいだ。

久しぶりにしたキスは乱暴に見えるのに、やっぱり優しさで溢れていた。
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