佐藤さんは甘くないっ!

「……最上とは同期で、あいつがアメリカ支社に行くまでパートナーを組んでいた。向こうから告白されて半年くらい付き合っていた」


さすがに体勢が気になって仕方なかったので、狭いベッドに二人でごろんと転がった。

こんなところ誰かに見られたらどうするんだろうかと思ったけど、佐藤さんはちゃっかり医務室の入り口に鍵をかけて電気まで消していた。……全く策士だ。

あれから一度も佐藤さんは“麗”と呼ばない。

意図的にわたしの前だからそうしているのは解ったけど、その配慮が嬉しかった。

そして交際期間が思った以上に短くて、時間が全てではないけど少し気持ちが楽になった。


「支社行きが決まる少し前に俺から別れを切り出した。仕事の上で一緒にいるのは楽だったが、プライベートとなると少し違った。最上は俺の中身が好きというより、顔が好きって感じだったな」


さらっと言ってのける佐藤さんはあくまでも真顔だった。

……そりゃあ佐藤さんはイケメンですけど。

でも、初めて会ったときの最上さんの剣幕……とても顔だけで付き合っているとは思えなかった。

佐藤さんを奪ったわたしへの憎しみでいっぱいに見えた。

…最上さんは今でも佐藤さんのことが…。


「鍵が欲しいとねだられて、初めにもらったカードキーのスペアを渡していた。部屋に来たのは数回だったけどな。返してもらうのを忘れていて、あいつがアメリカに行ってからそのことを思い出したんだ」


……予想していたよりずっと、佐藤さんが淡々としている。

もっと二人は愛し合っていて……てっきりアメリカ支社への転勤の所為で仕方なく離ればなれになったのかと…。

最上さんがカードキーを未だに持っていた理由も納得がいった。

たぶん最上さんはわざと返さなかったんだろうけど…。
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