佐藤さんは甘くないっ!

「……俺はたぶん、柴以上に誰かを好きになったことがない」


ちゅ、と甘い口付けが落ちてくる。

今日だけで何回きゅんきゅんしているんだろう。

このまま心臓が止まっちゃうんじゃないかってくらい幸せだ。

どうしよう。嬉しすぎてにやにやしちゃう。


「だから最上から合同プロジェクトで帰国する旨のメールが送られてきたときも、業務的な返信しかしなかった。そもそもあいつはもう俺に興味がないと思っていたんだけどな」

「…………最上さんは、今でも佐藤さんのことが…んっ、」


言いかけた口をそっと塞がれた。

悲しみが唾液と一緒に飲み込まれていく。


「それでも柴に誠実であるために、俺は言うべきだった。俺がどう思うかじゃなくて、柴の気持ちを優先するべきだった。……その所為で柴を酷い目に遭わせることになるなんて思わなかった」


過去の自分を恨むように、佐藤さんは眉間に皺を寄せて苛立ちを押し殺していた。

仮に知っていたとしても……あの日最上さんと対峙して、わたしは何ができたんだろう。

秘密にしていた佐藤さんにばかり腹を立てていたけど……問題はそこじゃなかった気がする。

今になって、やっと冷静に考えることができるようになってきた。

……本当はわたしが戦わなきゃいけなかったんだ。


「ごめん……ごめんな、柴」


ぎゅう、と腕の力が強まる。

それに呼応するように、わたしの目から涙がぽろぽろと転がり落ちていく。

……佐藤さんへの怒りなんてもうとっくに消えてしまっていた。

聞きたかったことも全部聞けたし、佐藤さんの気持ちも再確認できた。

だから今度は、わたしが謝らなければいけない番だ。
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