佐藤さんは甘くないっ!

あのとき、泣きながら三神くんに抱き付いた。

佐藤さんと最上さんのことが頭の中でぐちゃぐちゃになって、佐藤さんのことが信じられなくなって。

今まで好きだった佐藤さんのことが急に解らなくなって。

わたしの恋心だけが宙ぶらりんになった気がして。

誰でも良いから助けて欲しかった。


「そのあとお風呂を借りて、ご飯を作ってくれて……帰ろうと思ってたのにいつの間にか眠ってしまいました」


三神くんに好きだと言われてもちろん嬉しかった。

このまま流されても良いような気がした。

その方が絶対に楽だし、一時的にでも幸せになれると思った。

それでも……そんな簡単に忘れられなかった。

佐藤さんが心の中に居座って、消えてくれなかった。


「佐藤さんに会うのが怖かった。今までのは嘘だとか遊びとか言われたらどうしようって、そんなこと、ばかり、考えてっ…」


言葉にするたびに自分の身勝手さを思い知らされる。

逃げたって仕方がないのに、三神くんの優しさにずるずると甘えていた。

佐藤さんがマンションのエントランスで待っていたときは、心臓が止まるかと思った。

ましてや三神くんに抱き締められて告白されているところを見られるなんて、思いつくシチュエーションの中で最悪のものだった。
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