佐藤さんは甘くないっ!
そりゃわたしだって最上さんとのことなんか聞きたくないけど……けどぉ!
馨さんのばか。
ばかばかばか。
こんなときまで意地悪なんかしないでよ。
わたしがそっぽを向いてむくれていると、ネクタイを拾い上げた馨さんが時計を見た。
「宇佐野がさすがに怒りそうだし、そろそろ戻るか」
そういえば、わたしに休んでおいでと言ってくれたのは宇佐野さんだった。
もしかして最初から馨さんに会わせてくれるつもりで…?
……仕事中だっていうのに…本当に優しくて良い人だ。
感動のあまり涙腺がまた刺激されてしまった。
宇佐野さんへの申し訳なさと感謝を改めて胸に抱き、乱れた服装を急いで整える。
よし、と一息ついたところでぐっと引き寄せられた。
その瞳は優しくわたしを見つめていて、あの夜のことを彷彿とさせた。
「……お前のことをたくさん傷付けた。俺が一番に護ってやりたかったのに、三神にも……宇佐野にも助けられた。この年にもなって好きな女のひとりも護れないなんて情けないよな」
自嘲気味に呟かれた懺悔。
苦しそうな顔をした馨さんの頬を両手で包んで、わたしは泣かないように笑った。
「わたしだっていっぱい傷付けたんだから、おあいこです。その話はもうナシですよ!」
にへら、と笑ってみせると馨さんはわたしの手に自分の手を重ねて、困ったように目元を緩めた。