佐藤さんは甘くないっ!
なんとも柔らかい声音だった。
今朝のわたしが死にかけていたことを知っている宇佐野さんは、尋ねておきながらも答えを知っているような顔をしていた。
その見透かしたような瞳が嫌いじゃなくて、寧ろ心がほんわかと温かくなる。
本当に優しくて、周りをよく見ていて、素晴らしい上司だ。
恩人である宇佐野さんに嘘なんて吐けないことを、このひとはよく知っているくせに。
「…大丈夫です。馨さんのこと、信じているので」
自然と笑みが零れた。
たった数時間前まで、もう何も信じられないと落ち込んでいたのに。
現金なものだなぁと自分でも笑ってしまうけど、それだけ好きなひとの言動が与える影響は大きい。
想いが通じ合えたなら、尚のことである。
宇佐野さんは器用にフォークだけでパスタをくるくると巻きながら、楽しそうに目を細めた。
「でも馨まで出張に同行するはめになるなんてねぇ…」
ぐさり。
宇佐野さんが言いたいことは解ってる……わたしも、同じことを考えていたから。
たった数十分前の会話を思い出すと、無意識の内に顔が歪んだ。
「最上さんが書類を忘れたって……電話では仰ってましたね」
自分の言葉に棘が多く含まれていることにはさすがに気付いている。
信じているのは嘘じゃない。
馨さんのことは信じている。
……だけど、最上さんのことは信じていない。
食事中だというのに思わず頬杖をついて、溜息が出てしまった。