佐藤さんは甘くないっ!
佐藤さんは何を思ったのか、眉間に皺を寄せてぐっと顔を近付けた。
甘い、なんとも言えない香りが鼻腔を満たす。
香水なんて付けていないはずなのに、これはなんだろう。
頭がくらくらして、自分じゃなくなりそうだった。
「………さ、佐藤さんは、合コンに対して悪いイメージをお持ちなのかもしれませんが、わたしは…」
「じゃあどうして行く必要がある」
責めるような瞳に心臓がじくじくと疼く。
……仕事でミスをして怒られているときとは全然違う表情だった。
こんな至近距離で見つめられているのに、恐怖とは違った感情が心を占めている。
だけどその感情の名前がわたしには解らない。
「……変わりたいって思ったからです。いつも受け身的だったので、たまには積極的に自分から行動してみようって。恋愛に臆病になっている自分を変えたかったんです」
律香にしか言えないような本心をあの佐藤さんに吐露することは怖かったはずなのに、不思議と言葉はするすると咽喉を通った。
目を丸くして驚く佐藤さんは少し幼く見えて、不謹慎ながら可愛いとさえ思った。
「……だから、勘違いしないでください。佐藤さんにそういうことする奴だって思われたくないです」
その言葉は自身への戒めのようでもあった。
……わたしも勘違いしちゃ、だめだ。
佐藤さんにはあくまでも上司として、わたしのことを知って欲しかっただけで。
上司じゃなかったら友達にもなりたくないって昨日自分で言ってたじゃない。
ひとり、暗闇の中に放り込まれたような気持ちになった。
心の中に黒い感情がどろりと流れ込んでくるようで。
急に佐藤さんの目を見ることが怖くなって、思わずふいっと視線を逸らした。