佐藤さんは甘くないっ!
そのまま深いキスをしようとする馨さんをなんとか引き剥がして、オフィスに戻った。
本当ならわたしだって……その、いちゃいちゃしたいけど、ここはあくまでも働くところである。
それに、馨さんのポリシーはこれからも守りたい。
いつだって仕事に一生懸命で、佐藤さんのときはわたしに優しくない。
それで良いんだと、なんとなく思った。
わたしはこれからもびしばし佐藤さんにしごいてもらって、早く最上さんのような地位に上り詰めなきゃいけない。
まだまだ上があることを思い知らされて、俄然やる気が出たところだ。
オフィスに戻ると、不貞腐れた表情の馨さんを宇佐野さんが笑い飛ばし、それに三神くんも便乗して大変騒がしいことになった。
こんな風に皆で笑いあったりすることは初めてで、それと同時に馨さんがいるオフィスも久しぶりだった。
宇佐野さんと三神くんはいつの間にか仲良しになっているし。
宇佐野さんと馨さんは相変わらずの関係だし。
馨さんと三神くんはやっぱり睨み合ってるし。
わたしは我慢できずにけらけら笑ってしまい馨さんに般若の顔を向けられてしまったけど、それはそれで面白かった。
馨さんはこれからもプロジェクトで抜けてしまうけど、第一部署は安泰だと思った。
その所為で部長の座はまだ明け渡せず、部長は相変わらず期限前日の業務を掘り起こす天才だ。
宇佐野さんはブラック宇佐野さんの片鱗を見せつつ、三神くんもいるお陰で、なんとか馨さんがいない穴を埋めようとそれぞれが努力していた。
なんだか少し前と第一部署の雰囲気が変わり、企画の内容も良くなっていると部長が嬉しそうに話していた。
三神くんのお陰かな、と冗談交じりで言えば満更でもなさそうに笑っていたので、そういうことにしておこうと思った。