佐藤さんは甘くないっ!
「うさのさんんんんん~~~っ……!ぼくはぁ、しばせんぱいがぁ、ほんとにすきだったんですよおおおおお」
「……三神、その話は今日だけでもう30回は聞いたよ」
振られたあの日、さすがに良い歳の男だし、いくらなんでも泣かなかった。
柴先輩の左手に嵌まった指輪を見た今日、宇佐野さんの前で酔い潰れながら泣いた。
「週末の間に何かあったんだろうねぇ」
「だぁぁぁぁっ!いわないでくださいよおお!!」
土日の休みでなんとか心を静めて、上手く笑う練習をした。
しかし、その努力も虚しく終わってしまったのだ。
俺がそんなことをしている間に佐藤さんはちゃっかりプロポーズを済ませていたなんて。
「おさけ……なま、もうひとつ!」
「お前大丈夫か…今日は吐くなよ?」
ビール一口で顔は赤くなるし、飲めば飲むほど人格が崩壊することはさすがに学習している。
その所為で柴先輩に会えたけど……二回目もあったけど……膝枕もしてもらったけど…。
やっぱり男としては情けない。解ってる。
こうして、年甲斐もなく上司の前で泣き喚いていることも。
「あのふたりさ、三神のお陰で上手くいったよね」
「……ぼくもそうおもいますよ…」
ビールを飲んでも飲んでも身体が欲している。
今日くらいもう飲んで潰れて記憶でも飛ばさないと明日からやっていけない。
そうだ、記憶がなくなれば良いんだ。
全部なかったことにしてしまえばいい。
あの左手に光るダイヤモンドを見るたびに、その眩しさから頭がおかしくなる。
率直に、羨ましいと思った。
そんな風に柴先輩を愛せる佐藤さんが羨ましい。
それから、柴先輩に愛される佐藤さんが羨ましい。
……俺の方がずっと先に好きだと思ってたのに、それすら負けていたなんて。