佐藤さんは甘くないっ!
“柴先輩!?なにしてるんですか!?”
自分でもびっくりするほど大きな声だった。
突然の通り雨だったとはいえ、柴先輩は違和感を覚えるほどぐっしょりと濡れていた。
この辺りは屋根がある店舗が多いから、もう少し雨宿りをしながらも来れたはずなのに。
途中で傘を買うことだってできたはずなのに。
まさかこんなところで会うなんて運命的だ、なんて思う余裕すらなかった。
初めは、考えたくなかったけど誰かに襲われたとか……そんな嫌な想像が働いた。
だけど服は全く乱れていないし、大きな荷物も持っているし、なんとなく違うような気がした。
鞄に入れっぱなしにしてあったタオルの存在を思い出し、慌てて柴先輩を拭いた。
柴先輩は俺に会ったことにびっくりして固まっていたけど、突然躊躇いもなく抱き付かれて心臓が飛び出るかと思った。
“ぅああ、あっ、ああああっ……!!”
聞いたこともない……聞きたくもない、柴先輩の泣き声だった。
泣いているのは柴先輩なのに俺の胸が苦しくなる。
ねえ、泣かないで。
どうしたの。
柴先輩、笑っていてよ。
笑った顔が……好きなんだよ。
「……あのときは、ほんとうに……本当に、生きた心地がしませんでした」
宇佐野さんが水を頼んでくれて、それを一気に渇いた咽喉へ流し込んだ。
熱い。咽喉が、胸が、熱い。
確かに酔っ払っている自覚はあるのに、不思議と頭の芯が冴えているような感じがした。