佐藤さんは甘くないっ!
電車になんか乗っていられなくて、慌てて呼びとめたタクシーに柴先輩を押し込んだ。
たぶんあのときの俺は酷い顔をしていたと思う。
柴先輩がこのまま消えてしまいそうな気がして、無性に怖かった。
シャワーを浴びた柴先輩が出てくる頃には俺もすっかり落ち着いていて、上気で顔を赤くしている柴先輩にどきっとする余裕もあった。
そして予想通り、原因は佐藤さん絡みだった。
佐藤さんは悪くない……とも思わないけど、タイミングが悪いなと思った。
顔も見たことない最上麗とかいうやつには殺意が沸いた。
こんな風に柴先輩を傷付けたやつが許せなかった。
言うつもりはなかったのに……柴先輩を押し倒したときは、理性との葛藤だった。
ついついキスがしたくなって顔を近付けると、あろうことか柴先輩は目を閉じてしまった。
震える睫毛にどうしようもなく欲情した。
今なら奪えるかもしれない。
傷付いてぼろぼろになって佐藤さんのことが信じられない今なら、俺のことを見てくれるかもしれない。
吐息が触れる瞬間までは、そう思っていた。
「あはは、そこでやっちゃわない三神が僕は好きだよ」
「……どーせ、意気地なしですよ」
「解ってるくせに」
……そう、解っているんだ。
俺が好きなのは佐藤さんのことばっかり考えてる柴先輩で。
佐藤さんのために笑っている柴先輩なんだって。
「……まぁ、悔しかったんで挑発メールはしましたけどね」
「良いよ良いよ、馨バカだからそれくらいやっちゃって」
あの佐藤さんをバカと言ってけらけらと笑う宇佐野さんに勝てるひとなんているんだろうか…。
このひとだけは敵に回したくないな、と冷静に思った。