佐藤さんは甘くないっ!
―――それは、久しぶりに感じた、甘くとろけるような熱量だった。
たった一度だけかと思いきや、触れては離れて、また離れては触れる。
途中から無意識の内に瞼を下ろしていた。
あまりにも優しく甘ったるい口付けに、相手が佐藤さんだということを忘れてしまいそうだった。
顎に添えられていた手は、壊れ物を扱うようにそっとわたしの頬を包み込んでいる。
無骨な指先さえも不思議なくらい優しくて、また泣きたい気持ちに駆られた。
どうして、そんなに、やさしくふれるんですか、
言葉にならない想いは酸素を食もうと開いた口に舌をねじ込まれたことで意味を無くす。
余計な思考なんて、もう要らなかった。
だらりと垂れていた両腕はいつの間にか佐藤さんの首に回されていて。
赤く濡れたそれはわたしの舌を追いかけて、苛めて、吸い上げる。
飲み込めなかった唾液が口の端を伝うのが解った。
それすらも惜しいと言わんばかりに、佐藤さんがべろりといやらしく舐め取った。
生温い舌がわたしの理性を壊す。
もうどちらのものか解らない唾液と吐息が混ざり合って、どろどろに心臓を溶かしてしまった。
わたしの上顎をざらざらと舐め上げる舌が、ずるい。
歯列をなぞって舌を絡ませて、気持ち良くなって、酸素が欲しくなって、ぶくぶくと溺れる。
薄目で見た佐藤さんの頬は上気していてとても扇情的だった。
このまま、堅苦しいスーツを暴いて、素肌を合わせられたらどんな気持ちになるだろう。
切羽詰まった表情でネクタイを緩める佐藤さんを妄想して、身体の奥がじんと甘く疼いた。
熱に浮かされた脳みそでは全うなことなど考えられない。
ただ、もっと、この優しいひとに愛されてみたいと思った。