佐藤さんは甘くないっ!
「三神はこれでまたひとつ、オトナの階段を昇ったわけだねー」
「……宇佐野さんまでの階段はだいぶありますね」
俺の言葉にきょとんと目を丸くした宇佐野さんを見て思わず噴き出した。
佐藤さんに追い付きたかったけど、目標変更だ。
「可愛いこと言うじゃん。でもそれは遠い道のりだね」
「解ってますよ?すぐに追い越せたらつまらないじゃないですか」
にやりと笑って返せば、嬉しそうに頭をぐしゃぐしゃにされた。
決めた。
今の研修が終わったら絶対宇佐野さんの部下になる。
めちゃくちゃ仕事できるようになって、柴先輩も佐藤さんも越えてやる。
……それまでに柴先輩が寿退社をしないことを祈っておくけど、無駄かもしれない。
ツキンと小さく胸が痛んだ。
「……強がってもやっぱり、傷はそんな簡単に塞がりませんね」
「ゆっくり癒していけば良いよ。三神は忍耐強いでしょ?」
意地悪に細められた瞳が俺の心を見透かす。
…毎日あの指輪とご対面して、笑顔の柴先輩と一緒にいて、佐藤さんの自慢げな顔に慣れたら、そのときはきっと心が相当強くなっているはずだ。
そのときまで辛抱強く待つしかない。
なんだかんだいって、あのふたりと過ごすランチタイムは結構好きだったから。
「失恋祝いに宇佐野さん主催で合コンでもしますかーなんて」
「主催なの?別に僕は良いけど……彼女が許してくれたらね」
……………………!?!?
「ちょ、え、宇佐野さん彼女いるんですか!?!?」
「え、逆になんでそんな驚くの?いないなんていったっけ?」
「詳しく聞かせてください!!もう一軒行きましょう!月曜だからって帰しませんよ!」
「やーん三神のえっち」
「僕も全部吐いたんだから、宇佐野さんにも吐いてもらいますからね!」
「まぁまぁ、長い付き合いになるんだから楽しみはとっておきなよー」
...fin.(20150831)