佐藤さんは甘くないっ!
同期入社で初めて馨と会ったとき「なんだこいつ」と思った。
無愛想で仕事以外に興味ありませんって感じ。
僕とは合わないなーって思った。
別に仕事は嫌いじゃないけど、それが全てじゃないし。
好きなことをするために、生活をするために、仕方なく頑張るわけだし。
働かなくてお金がもらえるなら絶対その方が良い。
……でも、馨はきっとそれでも働くんだろうね。
柴ちゃんがいる限りは。
「柴ぁぁぁぁああ!!!誰がココア買ってこいって言った!!!コーヒーもまともに買えねぇのか!そんな脳ミソなら捨てちまえ!!!」
「いやー押したら何故かココアがでてきたので、面白くて……ぷくくっ」
「てめぇ……コーヒーっつったらなにがなんでもコーヒー買ってこい!」
「そんなにコーヒー飲みたかったんですか?す、すみません……ぷくくっ」
「…………殺すぞ」
「っ!!!こ、コーヒー、買ってきます!!!」
こんな和やかな光景が見られるようになったのは、柴ちゃんが入社してからだ。
ずっと淡々と仕事に打ち込んでいた馨ががらっと変わったのも、そのときから。
馨が初めて柴ちゃんを見たときの表情は今でも忘れられない。
もう……あははっ……笑いが止まらないくらい…ふふっ…おかしくて。
まさに一目惚れ。
たぶん、僕以外の誰も気付いてなかったけど。
だってあの馨が直属の部下を取った時点で有り得ないし。
皆もそれについてはびっくりしてたけど。
馨は柴ちゃんが入社する一年前まで、僕とも同期の最上麗とずっとコンビを組んでいた。
黄金コンビの呼び名は伊達じゃなくて、何度も大きな企画を成功させてきた。
あのときはまだ僕も星川も同じ部署だった。
この四人でチームを動かすことが多くて、結構楽しいメンバーだった。
……でも、馨だけは、ただ使命感に燃えている感じだった。