佐藤さんは甘くないっ!
………えっ。
また突然のことにびっくりして思わず固まってしまった。
佐藤さんはわたしの両肩に手を置いたまま俯いて硬直しているため、表情は窺えない。
しかしそこで、やっと自分の置かれている状況を思い出した。
ここが会社のオフィスであるとか、相手が鬼畜シュガーなんて呼んでいる上司の佐藤さんだとか、今まで忘れていたことが一気に押し寄せてくる。
……わ、わたしはなんてことを!?
い、い、いや最初にしたのは佐藤さんだけど!
でもわたし一切拒んでなかっ……いやいやいやいや思い出さない方が身のため!
いやでもさっきのは一体なに!?夢!?幻!?
ひとりでパニックに陥っていると佐藤さんがふらふらとわたしから離れた。
―――口を手の甲でおさえて、顔を真っ赤にして。
「(な、なにその表情!?!?)」
鼻血が出てもおかしくないほどの興奮だった。
こんな少女漫画に出てきそうな顔をした佐藤さんを死ぬまでに拝むことができるなんて。
っていやそうじゃなくて、なんだかまるでこの構図だとわたしが佐藤さんを襲って無理やり唇を奪ってしまったみたいに見えるんだけど、どういうことだろう。
断じてわたしは襲っていない。
お、おそわれた……ほうで………あって………。
自分で言葉にしたくせに、頭から湯気が出てのぼせてしまいそうだった。
……なんなんだこれは。
もう理解の範疇を完全に逸脱している。
完全に思考停止の状態で放心していると、更に顔を赤くした佐藤さんが死にそうな声で絞り出した。
「っ、すまん、間違えた……!!」
“ ま ち が え た ”?
……その言葉の意味を理解したとき、目の前が真っ暗になった。