佐藤さんは甘くないっ!
…………間違えた、って。
じゃあわたしと―――誰を、間違えたんですか。
さっきまでの熱い情事が脳内にフラッシュバックする。
…わたしに優しく触れたあの指先は、他のひとを想っていたのか。
あの口付けも全部、全部、全部。
言い様のない悲しみと怒りが込み上げてくる。
その甘い快楽に酔ってしまった自分が恥ずかしくて情けない。
……わたしじゃなくても、良かったくせに。
言葉を無くして茫然と立ち尽くしていた。
…なんだ、これ。
時間を巻き戻して全部無かったことにしたい。
そもそも佐藤さんと出会う前まで遡って、この会社に入ることを辞めたい。
黒い感情で思考が満たされる。
思い付く限りの罵声を浴びせてやってもわたしに罰は当たらないはずだ。
きっと睨み付けるような鋭い目付きで佐藤さんを見上げると、ばちっと視線がぶつかった。
佐藤さんは捨てられた犬のような顔をして押し黙っている。
……このっ!!
鬼畜ど変態キス魔エロ野郎が!!!!
「………順番を、完全に間違えた…」
ぽすんと、佐藤さんの頭の重みがわたしの肩にのしかかった。
今から叫んでやるぞと意気込んで開けた口が、ぽかんとそのまま開きっぱなしになる。
…………は、い?
開いた口が塞がらないとはまさにこのことだった。
このひとは、なにを、言っているんだ。
間違えたって相手の話じゃなくて……順番?
順番ってなんの?
キスより先に胸触るはずだったのにとかそういうこと?
いやそれだと本当にど変態野郎なんですけど…!
項垂れる佐藤さんになんと言葉を掛けたら良いのか解らず、思考だけがぐるぐると空回りする。
こんな訳が解らない状況だというのに、肩から伝わる熱が妙に心地良かった。
……わたしの頭も熱にやられてしまったみたいだ。