佐藤さんは甘くないっ!
佐藤さんがゆっくりと頭を上げて、額と額がこつんとぶつかった。
また至近距離に戻ってしまったことでおとなしくなった心臓が再び煩くなる。
「……いきなりキスをする男なんて…嫌いになったか」
普段の佐藤さんからは想像もできないほど弱弱しい声だった。
というか今日の佐藤さんが見せた表情はどれも初めてのものばかりで、もはや感覚が麻痺している。
……どうして大の男が、こんなに弱っているんだろう。
なんでキスしたんですか、とか。
順番ってなんのことですか、とか。
どうしてそんなこと聞くんですか、とか。
色々言ってやりたいことがあるのに、
「……………嫌いになんか、なってません…」
なんでわたしは、こんなことを言ってるんだろう。
もう自分のことがよく解らない。
目の前にいるのは、あの、鬼畜シュガーもとい佐藤さんなのに。
合コンに行くことを怒られたと思ったらキスされて、む、胸まで、触られたのに。
普通ならまずわたしも怒っていいはずなのに。
なにすんのよ、って平手打ちをかましたって十分正当防衛の範囲なのに。
……どうして…そんな気持ちになれないの。
「……お前に聞いて欲しいことがある」
「……はい」
佐藤さんの声がやっといつも通りに戻ったことにほっとする自分がいた。
やっぱり佐藤さんはこうであって欲しい。
いつも自信過剰で横暴で、だけどかっこいい佐藤さんが良い。
「(……あんな泣きそうな顔なんて、似合わないです)」
佐藤さんが身体を起こして、わたしに穴を開けそうな眼力でじっと見つめる。
あまりにも真剣な顔つきに胸がキュンと鳴った。
ああどうしよう…やっぱりたまにはかっこ悪くて良いかもしれない。
そんな顔ばっかり見せられたら、心臓に悪くて仕方がないから。
「柴、お前が好きだ。結婚を前提に付き合って欲しい」