佐藤さんは甘くないっ!
目の前が真っ暗になったような錯覚がした。
わたしがよっぽど絶望的な顔をしていたのか、部長が慌てて言葉を付け足す。
「柴くんには今まで通り佐藤くんの元で働いてもらうんだけどね、三神くんを補佐として仕事に関わらせてやって欲しいんだ。ソフトの扱いは問題ないから、すぐに仕事を覚えると思うよ」
何故か部長が誇らしげな顔をして三神くんの肩をぽんぽん叩いた。
三神くんはなんとも思っていないようで、相変わらず人の良さそうな笑顔を浮かべている。
だけど、まだ3年目のわたしに後輩の教育だなんて…。
その不安が露骨に表れていたらしい。
部長が垂れ下がった眉をさらに下げて、へにゃりと苦笑を浮かべた。
「佐藤くんの元で教育を受けてどうだい?」
唐突な問い掛けだったけれど答えは決まっているためすんなりと言葉になった。
これだけは迷わない、迷えない。
わたしにとって佐藤さんはかけがえのない大切な上司だ。
「仕事は大変厳しいですが、本当に勉強の毎日です。心から佐藤さんを尊敬しています」
それを聞いて部長は満足そうに笑った。
いつもは頼りない形ばかりの部長だと思っていたがその瞳は優しく温かい。
自分のことをちゃんと見てくれているひとが佐藤さん以外にもいるような気がした。
「僕はね、同じように三神くんにも経験を積んで欲しいなと思ったんだ。何も柴くんひとりで責任を負えと言っているわけじゃないよ。だけど君には三神くんと共に学びながら成長していく器がある。あの佐藤くんにしごかれて頑張っている姿を僕はよく知っているからね」
あと、迷惑ばっかりかけてごめんね。
申し訳なさそうに笑みを深くした部長の言葉は、すとんと胸の中に落ちた。