佐藤さんは甘くないっ!
「………うーん…もう朝かー…」
考え疲れたのか昨日はすぐ眠りにつき、いつ寝たのかはっきりと覚えていなかった。
眠りを妨げるように差し込む朝日が顔に直撃して眩しい。
ごろごろと駄々をこねるように数分間ベッドで転がり、渋々起き上がった。
昨日も食べたようなラインナップの朝食をぺろりと平らげ、ファンデーションとチークしかのっていないような薄めの化粧を手早く済ませる。
鏡に自分の姿を映したあと鞄の中身を一応確認して、もうだいぶ擦り切れているパンプスに足を通した。
今日も三神くんに仕事を教えなくてはいけない使命感に駆られて、何故かいつもより少しだけ早く家を出る。
時計を見ると普段より2本は早い電車に乗れそうだった。
…後輩ができたのは怖い反面、やはり嬉しい。
わたしのことを少しは認めてもらえたようで余計に頑張らなくては!と意気込んでしまう。
佐藤さんがいないのは少し不安だけど、わたし一人でもしっかりやっているところを出張から帰ってきた佐藤さんに見て欲しいな。
「柴先輩、おはようございます!」
車内でぼんやりしていたら肩をぽんと叩かれた。
満員電車の中で一際目立つ長身に、声の主は誰なのかすぐに判別がついた。
「三神くんおはよう。初めて電車一緒になったね」
「いつもこの車両なんですか?僕は普段もっと後ろに乗ってました」
「大体ここに乗ってるかなぁ」
「だから会わなかったんですね。今日ちょっと寝坊しちゃって慌てて駆け込んだんです」
恥ずかしそうに笑う三神くんは年齢差が僅かとはいえ、まだあどけなさが残っていて可愛い。
やっぱり犬みたいだなぁ、と心の中で呟く。
見えるはずのない尻尾が視界の端で揺れているような気がした。