佐藤さんは甘くないっ!
しかしひとつだけ気になることがあった。
「でも寝坊したっていうわりに……まだ十分早いよ?」
三神くんが寝坊して乗った電車と、わたしが普段より早く家を出て乗った電車が同じであるという事実に微妙な敗北感を覚える。
わたしは遅刻したことはないし…た、たまに、ぎりぎりに着いたときもあったけど。
佐藤さんがいる限りそうそうのんびり会社に向かうことはできない。
そんなことをしたらあの鬼畜シュガーが火を噴くのが目に見えているからだ。
だけどそれより更に早く出社して何かやることでもあるのかな…。
「いつも早めに行って新聞を読んでいるんです」
さらっと嫌味らしさもなく言われた言葉にわたしは目を丸くした。
…確かにリフレッシュスペースなる場所にいつも殆どの新聞社のものが置いてあるけど。
利用する人は正直わたしの知る限りはあまりいなくて、重役そうなおじさんがそこで煙草をふかしながら読んでいるイメージがある。
「家で新聞取らなくて済むのでありがたいですねー」
にこにことさも嬉しそうな笑みを浮かべる三神くんにもはや脱帽の念しか抱かなかった。
彼はただ受け身的に頑張っているホープじゃない。
自分なりにできることをしっかり努力して、今の地位や名声を手に入れたひとなんだ。
…それに気付いた途端、心に鉛が流れ込んでくるような気持ちがした。
わたしは、どうなんだろう。
佐藤さんの元で頑張ることだけに固執していたのではないか。
自分ができる努力を怠っていたのではないか。
もちろん三神くんの方がわたしよりずっと仕事はできるだろうし、将来的に彼は上の立場になるひとだろう。
でも努力の時点でこんなに負けていて、本当に良いの?
わたしは同期の中では仕事ができる方だったけど。
…それに甘えていたのかもしれない。