佐藤さんは甘くないっ!
目の前にいるのは、誰?
姿形は当然何も変わっていないのに、纏う雰囲気ががらっと違っていた。
「み、三神くん……?」
「……柴先輩って面白いよね」
冷めた瞳でわたしを見下ろすのは確かに三神くんのはずなのに。
口元に浮かんだ微笑はわたしをバカにしている。
この豹変っぷりは一体?
エレベーターは珍しく一度も止まらずに上へ上へと昇って行く。
しかし年季が入っているためごうんごうんと音が煩く、時間が掛かるのが難点だ。
今はその難点が本当に身に染みて痛い。
早く、早く、着いて欲しい。
身の危険のようなものを感じる程に今の三神くんは得体が知れない。
驚いて固まるわたしをつまらなさそうに一瞥し、彼は壁に背中を預けて天井をぼんやり見上げた。
温度を失くした瞳に色はない。
「……がっかりした?僕が好青年じゃなくて」
そのときの表情は何故か寂しそうな子供を彷彿とさせた。
ゆるりと視線を落とした彼の試すような瞳と困惑するわたしの瞳がぶつかり合い、なんとも言えない沈黙が精神的に攻撃してくる。
タイミングが良いのか悪いのか、エレベーターが鈍い音を立てて目的の階に到着した。
ぽかんと呆けたまま先に降りた三神くんの背中をじっと見つめても、その真意は解らない。
「早く降りないとまた下に行っちゃいますよ、柴先輩」
さっきのはなに?
にこりと無害な笑みを見せる三神くんはすたすたと歩いて行ってしまった。
……朝から頭が痛くなってきた。
迷わずリフレッシュスペースに消えた三神くんをそっと見送り、わたしは自分のデスクへと足を向けた。