佐藤さんは甘くないっ!

決して怒られたいわけではなかったが、恐る恐る佐藤さんに質問をしてみる。


「あの…ご用件は一体……」

「別に大したことじゃない」


即座にきっぱりとした返事がやってきた。

初めての着信に意味がないなんて、そんなばかなことがあるだろうか。

真意を探るように佐藤さんの瞳をじっと見つめていると、ふいっと顔を背けられた。

その仕草に少し胸が痛んだけれど、佐藤さんの耳がほんのり赤くなっていることに気付く。


「……見すぎだ、あほ」


……いつも通りなんかじゃ、ない。

違う、全然違う。

忘れかけていた感情が鈍った思考をさらに麻痺させるようだった。

あの日のことは夢ではないと、再び突き付けられる。

確実に以前の佐藤さんではなくなっていることが恥ずかしくも、甘く胸を疼かせた。

どうしたら良いか解らずとりあえず視線を逸らして黙っていると二人の空気を割るように明るい声がオフィスに響いた。


「柴先輩、おはようございます!」


ぴしり。

僅かに綻びかけていた佐藤さんの表情が音を立てて固まるのが解った。


同時に身体から発せられる邪悪なオーラが不機嫌さを物語っている。

何故か不穏な気配を感じ取ったわたしのレーダーがここから逃げろと教えてくれた。

しかし到底逃げ出せるような状況ではない。


「み、三神くん、おはよう!!」

「ミカミ?……あの新人か」


動転したあまりに上擦った声が出てしまった。

三神くんは一体いつからいたんだろう……。

決して疾しいことをしていたわけではないが、そんなことをぐるぐる考えてしまう。

そして佐藤さんが三神くんを知っていることにも驚いていた。

佐藤さんは記憶力が良く、オフィスの人間を大体把握していると以前言っていた気がする。

新人の三神くんのこともとっくに耳に入っていたに違いなかった。
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