佐藤さんは甘くないっ!
三神くんはいつも通り人当りの良さそうな柔和な笑みを浮かべている。
椅子に座っている佐藤さんの存在に気付いたのか、目を開いてどこか驚いたような顔をした。
その反応から察するに、三神くんも以前から仕事ができる佐藤さんのことを知っていたのかもしれない。
すぐに笑顔を浮かべると佐藤さんの元に歩み寄って綺麗にお辞儀をした。
「はじめまして、三神糺と申します」
「ご丁寧にどうも。佐藤馨だ」
明るい三神くんとは対照的に佐藤さんは無愛想で冷たい返答だ。
頬杖をついてじろじろと三神くんの上から下まで眺めた佐藤さんはつまらなさそうに、ふうんと声を漏らす。
なんとも態度の悪い上司の振る舞いにわたしは心の中で溜息を吐いた。
どうして急に不機嫌になってしまったのか解らないが、佐藤さんの怒りの沸点は人よりだいぶ低いところにあるので考えても無駄だろう。
しかし睨まれ続けている彼の方はと言えば、自分に向けられた悪意など感じていないと言わんばかりにけろっとしている。
それもそれで異常な光景になっておりわたしは居心地の悪さを噛み締めていた。
「で、柴とはどういう関係なんだ?」
!?!?
突然佐藤さんがそんなことを言うものだから、驚いて再びケータイを落としてしまった。
……本当にこの人は……どんな思考回路をしているんだろう……。
もはや日課のようになっている頭痛がやってきた。
絶対に佐藤さんと出会ってから寿命が縮み続けている、これは気の所為ではないはずだ。
三神くんは目を丸くした後、瞳に冷たい感情を浮かべて口角を吊り上げた。
雰囲気が変わったことを察知したのか佐藤さんも楽しそうに目元を緩めている。
……な、なんですか、これ……!?
わたしはおろおろしたまま二人の顔を交互に見つめ、早く始業の時間にならないかと時計に祈ってみたりもしたが針は変わらずのろのろと動いている。
二人の間でばちばちと、見えないはずの火花が散っている気がした。