佐藤さんは甘くないっ!
……彼氏がいたら良いなぁって、律香を見ていると確かに思う。
恋愛に左右されて落ち込んだり泣いたりもするけど、それすら人生の彩りの一部のようで。
まだまだ新米だけど、このまま仕事人間になってしまうのは少し嫌だった。
「どんなひとがタイプなの?」
「うーん……優しいひと、かなぁ」
脳裏に懐かしい元彼の姿がちらつく。
あのひとは優しすぎるほどに、わたしを甘やかしてくれた。
その所為で喧嘩をしたこともたくさんあったけどそれでも幸せだった。
忘れかけていた甘い痛みが、胸を焦がす。
それをココアと一緒に流し込んで見ない振りをした。
「つまり佐藤さんとは真逆のひとってことね」
「そうだねー。まぁ天変地異でも起きない限り、そもそも佐藤さんと何かあるわけないんだけど」
「佐藤さんって恋人とかいるのかなぁ、一回噂あったけどそれ以外聞いたことないや」
「……興味なかったからその噂すら初耳だわ」
佐藤さんでも女の人と噂なんて立つんだなぁ。
……どういうひとが好きなのかとか、全くイメージが沸かない。
そんなことを仕事中に聞いてみようものなら間違いなく怒られるだろう。
躊躇いなく無表情で拳骨を落とす佐藤さんが容易に想像できたのでそっと脳内の扉を閉じた。
わたしの脳細胞を犠牲にしてまで聞く内容じゃない、律香に頼まれても御免だわ。