佐藤さんは甘くないっ!
思考を遮るように佐藤さんがわたしを持ち前の眼力で威圧する。
見えないナイフがぐさぐさと身体に刺さって痛い。
「……柴は放っておくとすぐにどっか行くからな」
犬のくせに、と佐藤さんが呟く。
…色々聞き捨てならない、特に最後のやつ。
それこそ犬を撫でまわすように大きな掌がわたしの頭をぐしゃぐしゃにした。
初めて佐藤さんからそんな風に触られたことに驚き、愚かな心臓はどきんと鳴ってしまう。
「だからリードが必要なんだよ、阿呆」
拗ねた口調で漏れた不満。
今更ちょっとだけ恥ずかしそうに逸らされた視線。
……あ、そっか。
ひらめいたのと同時に、言葉を紡いでいた。
「み、三神くんは、ただの後輩ですよ…?」
もし間違っていたらわたしはとんでもない勘違い女であって、それはとても恥ずかしくて。
だけど多分、佐藤さんが気にしているのは……。
恐る恐る視線を持ち上げると、目を見開いた佐藤さんの姿があった。
今度は可愛いと思う暇もなくすぐに細められてしまう。
「……うるせえよ、馬鹿」
阿呆の次は馬鹿って…。
解っていたことですけどわたしのこと見下しすぎじゃないですか、なんて言葉は呑み込み。
また頭をぐしゃぐしゃにされて思わず目を瞑ってしまったけど、直前に見えたのは嬉しそうに口角を上げた佐藤さんだった。
意思と反比例するように、心臓が煩い。
どうしよう、そんな顔見せないで欲しい、ずるい、ああもうずるい。
目を開けると視界が垂れ下がった髪の毛で狭くなっている。
やることが小学生並みなのは今に始まったことではないので、諦めて手櫛で整えた。
そんなことをしても心臓は静まらない。
触らなくても顔が赤いのが解ってしまう。
認めたくないけど、でも、
「おい、柴?」
……認めるしか、ない。