佐藤さんは甘くないっ!

甘い拘束の中で、もぞりと動く気配。

わたしは咄嗟に自分の口を両手で覆っていた。

そして殺意から逃げるように顔を背けたが、その殺意というのは横顔にも思いっきり突き刺さってくるもので。


「……てめえ、喧嘩売ってんのか、柴」

「う、売ってません…!」

「じゃあなんだこの手は」

「キスとか!そ、それ、以上とかは……本当に付き合ってからするものです!!」


きっと睨み付けるように顔を上げると、言葉では言い表すことのできない般若顔があった。

眉根にはくっきりと深い皺が刻み込まれている。

瞳には冷酷な色が灯り、もはやそこに優しさなど微塵もない。

殺すぞ、と言いたそうに開かれた口は何かを躊躇うように空を食み、再び閉ざされた。


「…………一応、聞いといてやるよ」


自分で言ったくせにあれだけど、思わず耳を疑ってしまった。

さ、佐藤さんがわたしの言うことを聞いた!?!?

超常現象並みに不可解な出来事が目の前で起こっている…いや最近ずっとそんなことばっかりだったけど…。

すると何故か佐藤さんは自慢げな表情でわたしを見下ろした。


「彼女の我儘だからな」

「……み、身に余る光栄…」

「ふざけてんなら今すぐ押し倒す」

「すみません!!!ありがとうございます!!!」


なんとかわたしのお願いは聞いてもらえたようだ。

よ、良かった…!

佐藤さんの気持ちに今は応えられないって自分から言ったのに身体の関係だけ進んじゃったら……それこそわたしは後悔するし、佐藤さんとの関係もきっと終わってしまう。

人様に言えないような形でお付き合いを始めたくはなかった。

あからさまにほっとした表情のわたしを見て、佐藤さんは少し……いやだいぶ、不服そうだ。

オーラが明らかに変わったので思わず苦笑いを零す。


「我儘ばかりで申し訳ありません……」

「……来月末、俺の誕生日なんだよ」

「えっ」

「柴はどんなプレゼントくれるんだろうな?1ヶ月後には全部解禁になってるはずだし……楽しみだな」


にやり、と。

それはそれは悪い顔で、佐藤さんはわたしを脅迫したのだった…。
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