佐藤さんは甘くないっ!
「………と、いうわけでして」
長い回想を終えて、場所は再びわたしの部屋。
片手にはつまみ、もう片方には缶チューハイ。
一々騒ぎ出しそうだと思った律香は意外にも最初から最後まで一言も発しなかった。
「律香にだけは話しておこうと思って………って、律香?」
なんで黙ってるんだろう……やっぱりこんな始まり方は変だって思うかな…。
いくら相手が律香でもちょっとだけ怖かった。
不健全と言ってしまえば否定できないし、実際少しだけ事に及んでしまっている。
そんなことをしておいてお試し付き合いのようなことをするなんて、本当に都合が良すぎる…。
解っていたことだけど……できれば応援して欲しいなんて、我儘が過ぎるだろうか。
意を決して、あまりにも無反応な律香の顔を恐る恐る覗き込んだ。
と、同時に響く―――黄色い叫び声。
「きゃああああああ!!!!なにそれ!佐藤さんイッケメン!!!!かっこよすぎなんですけどおおおおっ」
律香は極限までにやけた顔できゃあきゃあ叫ぶと床に転がってじたばた暴れ始めた。
その胸にはわたしの可愛がっているぬいぐるみがいつの間にか抱きしめられている。
……わたしの心配を返せ!!!
不審者の行動を冷めた目で見ながらわたしは残りのチューハイを一気に煽った。
咽喉の奥が程良く熱くなり、次の缶に手を伸ばす。
「柴!!!おめでとう!!!お幸せにね!!」
まるでわたしが結婚するかのような口ぶりだ。
本当にちゃんと話を聞いていたのか……お付き合いすら確定していない状況なのに…。
そんな気持ちを読んだかのように、律香は唇を尖らせて拗ねたような顔をした。
「なーんでそんな冷めた顔してんの!だって相手は佐藤さんだよ!?しかもその自信たっぷり俺様具合!!ああああ最高っ!これは絶対結婚までいくねっ!もっと喜びなよー!!」
まるで自分のことのように喜んでいる律香は、顔を赤らめてぬいぐるみをばしばし叩いている。
……確かに佐藤さんは結婚を前提に、って言ってたけど……今はそんなこと考える余裕なんてないのだ。
まず佐藤さんのことをこの1ヶ月でたくさん知る必要がある。
そして答えを見付けなければならない。