佐藤さんは甘くないっ!
三神くんに罪はない…ないんだけど…!
彼は絶対に普通のひとより聡明で鋭くて、しかもわたしと佐藤さんに共通して最も身近な人物でもある。
要注意人物であることに間違いはないのだ。
「あれ、橘先輩も同じ電車だったんですか?」
「ううん、今日は柴の家から一緒に来たんだー」
「なるほど。楽しい週末でしたか?」
「浴びるようにお酒飲んでめっちゃ充実してたよ!」
「あはは。橘先輩は本当に酒豪なんですね」
わたしは思わず律香と三神くんの顔を二、三度見した。
橘先輩?どうして部署の違う律香の苗字を知っているんだろう?
同じ5階に入っている部署ではあるけれど……わたしは違う部署のひとの名前は殆ど知らない。
佐藤さんみたいな超人はたぶん、ほぼ全員覚えているんだろうけど。
わたしの表情から言いたいことを悟ったらしい三神くんが歯を見せて小さく笑った。
「僕は柴先輩の部署に配属される前、橘先輩のところでお世話になっていたんです」
「そうそう、柴に言うの忘れてたね。三神くんがいなくなってうちのOLたち皆寂しがってたよー」
その流れで談笑を繰り広げる二人に少し救われた。
びっくりはしたけど、律香と三神くんが顔見知りで良かったかもしれない。
三神くんもわたしたちが佐藤さんについて話していたことはすっかり忘れてくれたようだし。
追及されたとしても答えようがなかったしなー…。
うちの会社には社内恋愛禁止の規則なんてものはない。
だけどやっぱり、あんまり公表したいものでもない。
ましてやわたしのお願いでお試し付き合いのようなものをしてもらっている。
そんな関係が周りに知られたら……わたしはともかく、佐藤さんまで好き勝手に言われてしまうかもしれない。
佐藤さんの仕事に支障をきたす真似だけはしたくない…。
もしこのまま関係が終わったとき、周りのひとが知っていたら余計に気まずいしなぁ…。
はぁ、と心の中で重たい溜息を吐く。
ガタンゴトンと揺れる電車から窓の外を眺め、わたしはどんな顔で佐藤さんに会おうかずっと考えていた。