佐藤さんは甘くないっ!
重たい足取りでオフィスに向かう。
隣の三神くんは新聞を読みに行かないらしく、今日は珍しく同時に出勤する形になった。
「おはよう柴。さっそくだが仕事が山積みだ」
先週も同じような台詞を聞いた気がするのですが?
というか、いつも通りすぎる佐藤さんに思わず拍子抜けしてしまった。
……仕事中には何も言わないか。
何かって何、って話だけどさ…ああもういやだ…帰りたい…。
「……承知しました」
「そうだ柴、メールの件だが」
え!?!?今!?
今その話しちゃうんですか!?
三神くんが近くにいるっていうのに!何を考えてるんですか!?
「し、仕事があるので、失礼します!!!!」
「は?おい、柴―――」
「おはようございます、佐藤さん。僕は柴先輩の手伝いをさせて頂いてもよろしいですか?」
「……おはよう三神。ああ、もう仕事は大体覚えただろ。サポートしてやれ」
「はい、承知しました」
び、びっくりしたぁぁ…!!
佐藤さんは何を言うつもりだったんだろ…。
もう飽きたからやっぱ付き合うとかナシな、とか?
いやいや佐藤さんはそんなひとじゃ……確かに仕事のときは傍若無人で我儘で俺様で…。
だけどプライベートでも同じなのかな…。
もうわかんないよ…なんで返信くれなかったんですか…。
あー…頭痛い。
「柴先輩、大丈夫ですか?」
「……三神くん。今日は一緒に仕事するって?」
「佐藤さんが、柴先輩のサポートを、と」
「…わかりました。じゃあこの書類から始めてもらってもいい?」
「はい、承知しました。……僕で良ければ恋愛相談乗りますよ、柴さん」
耳元で聞こえたのは悪魔の囁き。
慌てて顔を上げると既に三神くんの姿はなく、自分のデスクでPCを起動しているのだった。
…そういえば忘れかけていたけど、三神くんはブラックなひとだ…。
色々ごちゃまぜになった感情を押し殺すように、わたしはキーボードを叩く速度を上げた。