佐藤さんは甘くないっ!
火曜日のランチタイム。
お昼に会議があるそうで、佐藤さんとランチは叶わなかった。
三神くんと食べようかと思ったのに気付けば彼の姿もなく。
ひとりで食べるのも寂しかったので、わたしは律香を誘うことにした。
会社の近くにあるカフェ「メランコリア」はわたしたちの行きつけの場所で、安くて美味しくて言うことなしの隠れた名店だ。
日替わりランチのとろとろオムライスを口に運んでいると、律香が思い出したように話し始めた。
「お昼にまで会議なんて佐藤さん忙しそうだねぇ。昨日も急遽出張だったって聞いたよー」
ぎ、ぎくっ。
…その出張とは職権乱用の元で生まれた嘘なんだけど。
目的は違えどさすがに佐藤さんとラブホテルに行ったことは口が裂けても言えないし…。
ましてやここは会社の近くなので誰に聞かれるかわかったもんじゃない。
わたしはあくまでも平静を装って何も知らない振りで返事をした。
「ら、らしいねー!なんか大きなプロジェクトでもあるのかな?」
「噂によると、アメリカの支社と共同で開発を進めてるとかなんとか。やっぱり佐藤さんも携わってるのかなぁ」
そんな話は佐藤さんから聞いたことがなかった。
でもわたしは秘書ではないので、未発表の情報まで全て教えてもらえるわけではない。
プライベートで会うときまで仕事の話はなんとなく避けたかったので、これからも聞く機会はないだろう。
「その話が本当なら…、やっぱり雲の上のひとって感じだよね」
先週も似たような言葉をわたしは発していた。
今はその殿上人と近しい距離にいるなんて信じられない。
そんな思考を見透かしたように、律香がにやにやと嫌な笑みを浮かべた。