佐藤さんは甘くないっ!

わかってる……佐藤さんは優しい。

恋人モードのときはどろどろに甘くて、仕事中からは想像もできないくらい人が変わる。

わたしの持ってる小物やスマートフォンのケースがアリスだから、このお店に連れてきてくれたのかな。

だってアリスが好きだなんて佐藤さんに直接話した覚えがない。

……調べてくれたのかな。わたしのために。


あんまり長居をするのもあれなので、とりあえず席に戻ることにした。

お手洗いを出てレジ前を通るときにふと気が付く。

レジ横にアリスモチーフのアイテムが売っていることに。

思わず目が釘付けになり、綺麗に飾られた棚に吸い寄せられるように近付いた。

ネックレスのトップがまた可愛い。

バラの花、紅茶のカップ、トランプに、チェシャネコ。

子どものように目を輝かせ、お手洗いの帰りだということも忘れて夢中になっていた。


「アリス、可愛いですよね」


突然掛けられた声にびっくりして振り向くと、店長という札を付けた可愛いお姉さんがいた。

柔らかい笑顔が印象的で声も甘い。


「はい、大好きなんです。このお店もとても可愛くて、」

「ふふふ…ありがとうございます。そう言って頂けて嬉しいです」


店長さんは周りをちらっと見てから、わたしの耳にそっと唇を寄せた。


「素敵な彼氏さんですね♪」


ぼぼぼ、とさっき振り払ってきた熱が顔に集まる。

そうですね、と返すのもおかしい。

しかし彼氏といってもあくまで(仮)彼氏なので、なんだか現実味のない褒め言葉に感じられる。

反応に困って曖昧に笑い返すと、さらに言葉は続いた。


「秘密なんですけどね、週末におひとりでいらっしゃって。初デートで彼女を喜ばせたいから、って恥ずかしそうにおっしゃってました。こんな可愛い感じのお店に入るの、きっと男性なら抵抗もあったでしょうに。」
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