ただキミが欲しかった
自分の目がおかしくなってしまったのかと唖然とする。
妄想が見えているのではないかと目の前から歩いてくる人物を疑う。
でもその人は______
紛れもなく、シンのメンバーだった。
高坂優愛(こうさか ゆあ)くん。
………え、え、え!?
マスクをしてニット帽をかぶっているけど、目元が結愛くんのまんまだ。
しかも結愛くんのトレードマークである目元にある泣き黒子が、目の前の男にはちゃんとあった。
もう内心パニックのあたし。
あのシンのメンバーが。
あの高坂優愛が。
あたしの目の前にいる。
そのことに混乱しながらも、酷く感激して。
ポロリ、と涙が零れてしまった。
「あ、あのっ!」
ついたまらなくなって、声をかけた。
すると結愛君は_______あたしに視線を向けた。
更に感激して涙が溢れてくる。
彼が今、あたしだけを見つめている。
なんて凄いことなのだろうか。
なかなか行けないコンサートでも、彼らの目に自分が映ることなんてめったにないのに。
「………高坂、結愛くん……ですか?」
嗚咽をかみ殺しながら、必死に涙を拭いて声を出した。
すると一瞬目を見開いた彼も、目元を綻ばせて。
「よくわかったね」
いつも聞いてた声より少し、低めの声を出した。
あぁ________。
やばい。
全てがやばい。
「あ、のあたしっ!シンの大ファンなんです!!」
神様、どうかこれが現実でありますように。
「………ありがとう」
更に涙が溢れる。
本当……すっごく嬉しい。
「大好きで、大好きで……っ!本当に応援してるので、頑張ってくださいっ」
「……嬉しいな。これからもよろしくね?」
「はいっ」
夢のような時間は、あっという間だった。