Caught by …
 驚いたように顔を上げた彼と、振り上げた手を下ろしてこちらを振り返る浮浪者の男に、私はどうすれば良いか分からず、ただ冷や汗を流す。

 逃げなきゃ…。

 そう、頭で理解しているのに足は一歩、二歩と後退りするのがやっとで。

「なんだぁっ?おれぁ喧嘩売ってんかぁ!?」

 声すらも出せずに、ただ首を横に振るしかできず、恐怖に息は上がる。

 どうしよう、どうすればいい?と問いかけたところで何も答えはみつからない。

 そうしている間に、男はこちらに向かって歩いてくる。

 情けない話だが、彼に助けを求めようとして、男の後ろに目を向ける。しかし彼は無表情で俯いていて、私の方を見ようとしない。

 …所詮は私の幻想でしかない白馬の王子。こんな歳にもなって、何を期待していたんだろう。自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。

 いや、今はそんなことよりも逃げ出さなければ。

 冷静になって一歩を踏み出そうとしたが、男はすぐ近くまで来ていて、いやらしい笑みを浮かべ私の腕を強く掴んだ。

 そのあまりの痛さに悲鳴をあげる私に、男は下品な笑い声を出す。

「若い娘じゃねぇか……大人しくしろよぉ?」

 腕を振りほどこうとしても、余計に力を強く込められただけで、おまけに顔を近づけられ、男の吐息に吐き気を感じた。
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