Caught by …
 こんな風になるなら、クラブでもなんでも行けば良かった!…なんて今更嘆いた所で仕方がないと分かっている。なのに、自分の意思に反して目から涙が溢れ出る。

 怖くて、でも、どうすることもできない。

 抱きついてくる男に、必死に抵抗しても、逃れられない。

 こんな男に、手も足も出せない弱い自分。掴まれた腕に力が入らなくなる。息もうまくできない。…苦しい。

「…た、たす、助けてっ‼」

 一縷の望みをかけて、助けを求める。

 だいたい、どうしてすぐにアパートに帰らなかったんだろう。いつもの私なら、自分ではどうにもできない事をしようだなんて思わないはずなのに。

 考えれば考えるほど情けなくて、辛くて、だけど私には泣きながら必死に意味のない抵抗をするしかない。

 視界は涙で歪んで、もう何が何かわからない。

 はらっても離れない、体に這う男の気持ち悪い手に悪寒する。

 トムにだって未だに体を許したことがないのに…、そう思うと彼の優しい笑顔が頭に浮かんだ。彼なら私の嫌がることなんて絶対にしない。トムはいつだって優しくて、ぼんやりしがちな私の手をひいてくれて。

「…トム…トム、助けて」

 恐怖に震える声は、思っていたよりか細く情けないもので、誰にも届きそうにない。

 もう、何をしても無駄だ。

 半ば諦めて、瞼を閉じた。

 …だけど突然、まとわりついていた男が、ものすごい勢いで私から引き剥がされていた。
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