Caught by …
 その反動でよろけてしまう私は、踏みとどまろうと足を出す前に、誰かの腕に引き寄せられた。

「消えろ、クソが」

 続いて聞こえてくる低くて身震いするほど冷たい声と言葉に、目を瞬かせて見上げるとそこに…

 彼が、迷子の子猫が、男から私を隠すようにして抱き寄せていた。

 あり得ない現実。

 もしかして夢?

 長身の彼を間近に見上げることが初めてで、こんな状況でも、そのシャープな顎のラインと彼の少し速い鼓動にときめいてしまう。

 そんな私に構わず彼は、地面に倒れ込んでいた男が立ち上がろうとするその頭上に、自分のポケットから引っ付かんだお札をばらまいた。

 私が驚愕して息をのむのと同じく、男は舞い落ちるお金に気づくと無我夢中にかき集め始めた。

 その光景を呆然と見ていた私から少し体を離した彼は、私に目を向けようとはせずに、ただ腰に手を回して歩くように促す。

 それはさっきの言動と違って優しく、無理強いするようなものではなかった。だから私も自然と彼に合わせて歩き出していた。

 今度は私の鼓動が速くなる。…ううん、彼とは比べ物にならないほど、痛いくらいに速くなっている。

 今までは座っている姿しか見かけたことがなかった彼が、私の隣を歩いている。しかも、腰に手を回して、エスコートするように。

 まだ、現実味を全く感じられない。

 確かなのは掴まれていた腕の痛さと、この尋常じゃない心拍数だけだ。
< 13 / 150 >

この作品をシェア

pagetop