黄昏に香る音色 2
K
マンションの前まで来た。

「じゃあ、帰るね」

直樹は、バイトに行かなければならないのに、駅から離れたマンションまで送ってくれた。

「飯田くん!」

帰ろうとする直樹を、香里奈は呼び止めた。

振り返る直樹。

「送ってくれてありがとう…」

直樹は苦笑し、

「当然のことだよ…一応彼氏なんだから」

「あ、ありがとうは、それだけじゃなくて…」

香里奈は少し照れ、視線を外しながら、

「いつもありがとう」

少し驚く直樹。

「どうしたの?」

直樹は心配そうに、香里奈にきいた。

いつもと雰囲気が違う。

「あ、あたしたちって…付き合ってるに…まともなこと…デートとかもしたことないじゃない…」

直樹の驚きは、終わらない。

「襲われたり…騒動になったり…」

「でも、それは速水さんのせいじゃないし…」

「だから…あ、あのさ…」

香里奈は口ごもる。

「え、え…」

しばらくして、

「もおっ!」

地団太を踏むと、香里奈は真剣な顔で、直樹を見、

「気をつけて帰ってね。ナオくん」

それだけ言うと、マンションに走って逃げた。

直樹は、しばらく放心状態になった後、

歓声を上げた。

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