黄昏に香る音色 2
「今住んでるところも、私が…」

光太郎の言葉を待たず、

「でていきます」


「和也!」

「お世話になりました」

和也は、光太郎から離れると、扉へと向かった。


「お前たちは、すべてを失うんだぞ!」

和也は、光太郎に背を向けたまま、

言った。

「なくしたら、またつくればいい!他人にすがったり、奪おうとするのではなく!」

和也は、少し振り返った。

「私たちは、生きています。生きている限り、何でもできます」

そう言うと、

和也は廊下に出た。

少し立ちすくみ、息を吐く。

歩きだした足が、軽いことに驚いた。

生きていく責任は、重くなったが、

それでも、やっていける心は、十分にあった。


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