黄昏に香る音色 2
啓介は、近づくティアの姿に怯えた。

「こっちに来るな!」

「どうされました?」

ティアは、しゃがみ込んで、啓介の顔を覗き込んだ。

「KK…」

心配そうなその表情が…

再び、啓介は記憶の中に沈んだ。



陰がある、艶めかしいこの肢体は…

絡みつくようだった。

「啓介さん…」

背中越しに、百合子が囁く。

「あたし…音楽の才能がないらしいんです…」

「才能…」

百合子は、体を啓介に向けた。

人差し指で、横になっている啓介の腕を撫でる。

「あなたの明日香さんや、香里奈ちゃんが、あるのはわかるんですけど…」

百合子は、体を密着させる。

「志乃は、どうしてかしら…。あたしの妹なのに」

百合子は、啓介の耳元に唇を寄せる。

「ずるいと思いません…」

「志乃ちゃんが…」

啓介は、くすぐったそうに、顔を背けた。

「違いますぅ」

百合子は逃がさない。

「あなたの奥さん…」

啓介の体に、百合子が絡みつく。

「あなたの妻で、美人で、歌手で…人気があって…」

「百合子…」

「ずるいわ…少しぐらい、幸せがなくなればいいのに…」

百合子は、妖しく微笑んだ。

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