黄昏に香る音色 2
「そ、そんな話…」

パニクる啓介に、

百合子は顔を近づけ、

「知らないはずです」

啓介を見つめた。

「言ってないから」

啓介は、ハンドルを握り締め、

「どういうことだ!」

「だって…」

百合子は、視線を前に戻し、


言ったら…産ましてくれなかったでしょ」

「当たり前だ!」

啓介は叫んだ。

百合子は笑い、

「あたし…音楽の才能がないんです…だから」

百合子は、赤ん坊の頭を撫で、

「ほしいんですよ…才能が…」

「…」

啓介は絶句する。

「あたしの思い…啓介さんの才能…」

百合子は愛しそうに、赤ん坊を撫でる。

「この子は…志乃や香里奈をこえるわ」

「百合子…この子は…」

啓介の戸惑いに、

「信じられない?だったら、調べたらいいわ!どこでも行ってあげる!」

啓介は子供のことより、

百合子の思いと、表情と、

執念に、身を震わしていた。



「啓介さん…」

百合子は、赤ん坊を撫でる手を止め、

「あたし…ちょっと…残念に思いましたわ」

百合子はいやらしく笑い、

「男の人って…どんなに愛する人がいても…裏切るんですね」





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