黄昏に香る音色 2
「あたしが、誘ったから?何度も断ったのに…」

百合子は、啓介を見つめ、

「だけど…」

百合子は、さらに顔を近づけ、耳元で囁く。

「裏切ったことには、変わらない」

そう言うと、百合子は大声で笑った。

「ははは!」

笑い声は止まらない。

「百合子…一体何が目的なんだ!」

百合子は、笑いを抑えると、

「言ったでしょ…才能がほしいって…」

百合子は、赤ん坊の顔を覗き込んで、

「この子を、明日香さんに見せたら…どう思うかしら?」

「それが、目的か…」

「あたし…音楽に愛されたかった…でも、愛されなかった」

百合子は、前を睨む。

「なのに!あたしの周りはみんな、愛されてる!どうして!」

「百合子…」

「許せない!許せない!才能があって、幸せなんて!」

啓介は、ハンドルを切った。

車が急に反転する。

社内が激しく揺れる。

「きゃー!」

百合子が叫ぶ。

車は先程と、反対を走り出す。

「どこいくの!」

明日香にいきなり、会わす訳には行かない」

啓介は、アクセルを踏みしめ、

「ちゃんと話してから」

「戻ってよ」

百合子は、ハンドルを隣から、無理やり、切ろうとする。



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