黄昏に香る音色 2
「ママ…あたし…」

香里奈の声のトーンが低い。

明日香は、鍋を煮込みながら、

「今日のこと?」

「あたし…コンサートを台無しにしちゃった…」

香里奈は、自分の手を見つめ、

「パパを殴っちゃったし…」

香里奈の手が、震えた。

「勢いで、大変なことしちゃった!」


明日香は、鍋の火を消した。

「でも…志乃ちゃんのコンサートなのに…あんな利用するようなこと!許せなかった」

香里奈は叫んだ。

明日香は、鍋をテーブルに置くと、皿にいれる。

「それに、パパだって!」

「はい。できたわよ」

明日香は、お盆に皿をのせ、香里奈の前まで運んでくる。

それは、香里奈の好きなビフシチューだった。

「お腹すいてるでしょ。食べなさい」

明日香は、後ろから、立っている香里奈の両肩に手を置き、ソファに座るように促した。

香里奈は、しぶしぶソファに座ると……いただきますと手を合わせてから、

シチューを食べる。

明日香は微笑み、

「そうね…あなたのやったことは、その場にいたお客さんには、失礼だったかもしれないわね。だけど…」

明日香は、お水をコップに注ぎ、香里奈の前に置いた。

「あのコンサート自体が、危険だったから…」

香里奈は、スプーンを止めて、

「でも…その後、ものすごい騒ぎになったでしょ…」


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